反英霊
この用語は何か
反英霊とは、英雄として讃えられた者の裏返しとして英霊の座に記録された存在を指す語である。ただしこの表記が使われるのは全編で4章5件にすぎず、定義らしい定義は与えられていない。実際に運用されているのは同義の反英雄のほうで、こちらは36章73件にわたって現れる。両語を並べて区別する場面は一度もなく、話者ごとの表記揺れと見てよい。
内容にもっとも近い説明は、特異点Fでアンリマユが自分について述べる「英雄の真逆、英雄を活躍させる為の反英雄。」である。善が善として成立するために必要とされた障害——それが記録された結果が反英雄であり、生前の罪の重さや邪悪さが基準になるわけではない。この点は亜種特異点Ⅳで、より罪深い人物ではなく被害者側の少女が反英雄として覚醒する場面ではっきりと示される。
注意すべきは、作中に「反英霊クラス」「反英雄クラス」という霊基枠は存在しないことである。クラスとして登録されるときの受け皿はアヴェンジャーなどのエクストラクラスであり、反英霊/反英雄は霊基の種別ではなく、人類史への記録のされ方を指す言葉として一貫して使われている。
基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正体 | 英雄の対極として人類史に刻まれた英霊。クラス名ではない |
| 表記 | 「反英霊」(4章5件)/「反英雄」(36章73件)。後者が実質的な標準表記 |
| 成立経路 | 恐怖の摂取(カーミラ)/英霊の映し鏡としての記録(ジャンヌ)/英霊に討たれる役(茨木童子)/敵役として望まれた結果(アンリマユ) |
| 対応するクラス | 固有のクラスは無い。アヴェンジャーとして登録される例が多い |
| 作中での初出 | 特異点F 炎上汚染都市 冬木(アンリマユの自己説明) |
章別解説
特異点F 炎上汚染都市 冬木
このカテゴリの定義役は、名乗り出たアンリマユ自身である。「アンリマユというのはどんな英雄だったのか」と問われた彼は、まず自分は英雄ではないと否定し、もともと悪魔の名称であって、色々あってその名と殻を貰っただけだと答える。そのうえで自分の位置づけを、英雄の真逆、英雄を活躍させるために多くの冒涜から生まれたやられ役——反英雄である、と言い切る。
ここで重要なのは、彼が反英雄の成立を他人の都合として説明していることである。復讐者になった理由も、生前に受けた恨みが忘れられず死後まで出てくるからだと続けており、自分の意思で悪を選んだという説明は最後まで出てこない。反英雄は望んでなるものではなく、英雄の側が必要としたから作られる——以後の章で繰り返される原則が、最初の章で提示されている。
- 〔アンリミテッド・レイズ/デッド〕アンリマユ —「英雄の真逆、英雄を活躍させる為の反英雄。 多くの冒涜(ぼうとく)から生まれたやられ役ってな。」(この場面を読む)
→ 章別解説: 特異点F 炎上汚染都市 冬木
第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン
「反英霊」という表記が使われる数少ない場面が、この章に二つある。
ひとつは配下を送り出すジャンヌ・オルタの言葉である。狂化した英霊たちが私怨に任せて口論を始めた場に対し、彼女は好きに動けと許しながら、反英霊にも礼節はある、ただの殺人鬼に落ちないよう気をつけろと釘を刺す。反英霊は無軌道な殺戮者とは別物であり、内側に規範を持つ側だという線引きが、当の反英霊側から引かれる。
もうひとつはカーミラの自己規定である。同一人物であるエリザベートと罵り合う場面で、彼女は自分を誰もが恐れ敬った血の伯爵夫人の完成形と称し、未完成品であるエリザベートとは訳が違う、自分は恐怖を喰らって反英霊となったのだと述べる。エリザベートが喰らったのは老いと封印への恐れという自分自身の感情であるのに対し、カーミラは他者が自分に向けた恐怖を摂取している。外から向けられた感情を糧にすることで、英霊とは別種の存在に固定されるという成立経路が、ここで具体的に語られる。
- 〔黒いジャンヌ〕ジャンヌ・オルタ —「反英霊にも礼節はあります。 ただの殺人鬼に落ちないよう、気をつけなさい。」(この場面を読む)
- 〔ジャンヌとジャンヌ〕カーミラ —「おまえのような未完成品とは訳が違う。 私は恐怖を喰らって反英霊となり、ここに居る。」(この場面を読む)
→ 章別解説: 第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン
亜種特異点Ⅳ 禁忌降臨庭園 セイレム
反英雄になる条件が罪の重さではないことが、実例で示される章である。魔女裁判の犠牲になった側であるアビゲイル・ウィリアムズの霊基が解放され、マシュが反英雄の魔女という観測結果を報告する。魔女裁判のさなかに本物の魔女が生まれる、という倒錯にマシュは絶句する。
ロビンフッドの反応が、この現象の異常さを言い当てている。罪の重さでいえば魔女狩り人ホプキンスのほうがよほど反英雄にふさわしかったはずだ、と。より悪い者が反英雄になるのではなく、人々がそう望んだ側がなる——アンリマユが冬木で述べた原則が、加害者ではなく被害者に適用される形で反復されている。
- 〔六つの結び目〕マシュ —「反英雄の……魔女? 魔女裁判で、本物の魔女が生まれる……?」 / ロビンフッド —「罪の重さじゃホプキンスのほうが よほど反英雄にふさわしかった筈だ。」(この場面を読む)
→ 章別解説: 亜種特異点Ⅳ 禁忌降臨庭園 セイレム
Lostbelt No.6 妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ
反英雄が、クラス体系を説明するための分類軸として用いられる唯一の場面である。ブリテン島が崩壊していくなか、ネモ・マリーンは謎のサーヴァントの霊基が七つのクラスにもエクストラクラスにも該当しないと報告する。これを受けたホームズが、英霊の記録され方を段階的に並べていく。
まず、正しく人々の憧れとなり時代を導いた達成者である『英雄』。次に、善を成立させるものとして必要な障害である『反英雄』。そして、その反英雄のなかには偽ることで偉業を成した者もいただろう、と続き、魂まで騙ることで本物以上の功績を残した何者かとしてプリテンダー——役を羽織る者——が導き出される。反英雄は英雄とプリテンダーの中間に置かれた記録形式であるという整理が、この短い推理のなかで示される。
- 〔夏の夜の夢〕ホームズ —「正しく人々の憧れとなり、 時代を導いた達成者である『英雄』。」「善を成立させるものとして必要な障害…… 英雄のカウンターである『反英雄』。」(この場面を読む)
→ 章別解説: Lostbelt No.6 妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ
死想顕現界域 トラオム
英雄と反英雄の区別が意味を失う特異点である。二百騎を超えるサーヴァントが陣取り合戦を続けるこの世界で、地の文は死体の山を前にして、国を救った英雄であろうと害をもたらした反英雄であろうと、きっかけひとつで当たり前に死んでいくと述べる。決戦局面ではさらに踏み込み、高潔さを讃えられた英雄と怪物と罵られた反英雄、百人を殺害した英雄と一千人を守った反英雄——どれも違いはない、と並べてしまう。善悪の内訳が入れ替わっても記録上の呼び名は変わらないという指摘であり、区分そのものへの疑義になっている。
登場人物の側も自称として軽く使う。清姫は敵陣の刺客に対し、自分は反英雄だから命を狙いたければどうぞ、と応じる。復讐界域の女王クリームヒルトは、勝手に振る舞うサロメについて、あれはそういう在り方を求めた反英雄だ、全否定しても益はないと部下に説明する。反英雄は非難でも自嘲でもなく、単なる属性の申告として通用している。
一方でサンチョは、この特異点で汎人類史への叛逆が起きた理由を、反英雄だから邪悪になったとか英雄が悪に染まったといったものではない、と否定する。反英雄であることは行動の動機を説明しないという留保が、同じ章のなかに置かれている。
- 〔全面戦争・復権界域(前編)〕(地の文) —「高潔さを讃(たた)えられた英雄、 怪物と罵られた反英雄。」「百人を殺害した英雄、 一千人を守った反英雄。」「どれも、違いはない。 ただただ、ひたすらに殺し合う。」(この場面を読む)
- 〔全面戦争・復権界域(後編)〕清姫 —「わたくし、反英雄です。 命を狙いたいなら、それでもどうぞ。」(この場面を読む)
- 〔棺桶屋だけが友達なのさ〕クリームヒルト —「アレはそういう在り方を求めた反英雄。 全てを否定したところで、何の益もありはしないわ。」(この場面を読む)
→ 章別解説: 死想顕現界域 トラオム
幕間の物語
個々のサーヴァントの幕間には、反英雄という記録のされ方をどう引き受けるかという語りが集まっている。
ジル・ド・レェは、堕落した未来の自分を指して、あれは確かに未来の私であり、反英雄、虐殺の徒、邪悪の塊なのだと認める。それも自分だと認めることから目を逸らしてはならない、と続けるこの場面は、反英雄を否認できない自分の一側面として扱う例である。逆にメドゥーサは、姉たちの前に立てなかった理由を、自分が奇跡のような偶然と人類史の歪みの産物であり、本来ならありえない『反英雄ではないメドゥーサ』だからだと説明する。同一の英雄から反英雄でない霊基が成立しうることが、当人の口から語られる数少ない例になっている。
サンソンは自分たちを「英雄」と総称したうえで、そこには反英雄も御伽噺の怪物も含まれると但し書きを付け、英雄として望まれてそう生きたか、怪物として望まれてそう死んだかの違いにすぎず、正負の違いはあれど強い力と知恵と意志がある点は同じだと述べる。同じ理屈をもっとも冷たく言い切るのが、アルジュナをめぐる地の文である。英雄も反英雄もその手に罪があり、その罪は召喚された時点で拭い去られている、ゆえにサーヴァントは等しく罪人で等しく贖った者だ、と。反英雄という記録は、召喚後の行動を裁く根拠にはならないという原則がここで確定する。
- 〔たった二人の戦争〕ジル・ド・レェ —「あれは、確かに未来の私なのです。 反英雄、虐殺の徒、邪悪の塊。」(この場面を読む)
- 〔なかよしゴルゴン三姉妹〕メドゥーサ —「本来ならありえないはずの――― 『反英雄ではないメドゥーサ』。」(この場面を読む)
- 〔万感の想いは楔のように〕サンソン —「僕たち英雄―――反英雄や御伽噺(フェアリーテイル)の怪物も 含めての話になるのだけれど。」「英雄として望まれ、そう生きたから。 あるいは怪物として望まれ、そう死に果てたから。」(この場面を読む)
- 〔魂の灯火について〕(地の文) —「英雄、反英雄というものは、 その手に罪があり―――」「そして、その罪は召喚された時点で 拭い去られている。」(この場面を読む)
→ 章別解説: 幕間の物語
超極大魔城ベルトチェイテ
「反英霊」という表記が使われる最後の例であり、討たれ役としての反英霊という三つ目の説明が出てくる。人理継続を願わない英霊は不許可とされる、という基準が話題になるなか、茨木童子は自分も人間は憎いが人の世を滅ぼす気はない、人間がいるから鬼がいるのだと述べ、罪を積み上げた赤い角の少女に対して、『無』を望まないかぎりおまえも英霊のひとりだと認める。ただし——反英霊という、英霊に敗れるための生贄として、という但し書きが付く。
この一言は、冬木でアンリマユが述べた「英雄を活躍させる為の反英雄」と正確に対応している。反英霊は物語の中で敗れる位置を割り当てられた者であるという理解が、別々の章で、まったく異なる話者から同じ形で提示されていることになる。同じ台詞は復刻版の伝説再来魔城チェイテにもそのまま現れる。
- 〔第十四節『歌を歌おう』〕茨木童子 —「いまここにいる事を否定できる者は、誰もおらぬ。 『無』を望まぬかぎり、貴様も英霊のひとりだ。」「無論、反英霊という、 英霊に敗れるための生贄としてだがな。」(この場面を読む)
→ 章別解説: 超極大魔城ベルトチェイテ/伝説再来魔城チェイテ
読み取れる設定
- クラスではない(確定): 作中に反英霊/反英雄というクラス枠は一度も現れない。クラスとして登録される場合の受け皿はアヴェンジャーで、奏章Ⅱのサリエリは平景清を「アヴェンジャークラスで登録された反英雄。」と呼ぶ。復刻:ダ・ヴィンチと七人の贋作英霊でも、ジャンヌ・オルタが自らを「漆黒の殺意と暗黒の憎悪を羊水として産み落とされた 反英雄――アヴェンジャーのサーヴァントだ!」と、反英雄とクラスを重ねて名乗る。
- 成立経路その一(確定): 恐怖の摂取。カーミラ「私は恐怖を喰らって反英霊となり、ここに居る。」(オルレアン)。
- 成立経路その二(確定): 既存の英霊の映し鏡としての記録。ジャンヌ「貴女は私という英霊の映し鏡。 即ち、反英霊として記録するかもしれませんよ。」(幕間の物語)。
- 成立経路その三(確定): 英霊に討たれる役。茨木童子「無論、反英霊という、 英霊に敗れるための生贄としてだがな。」(ベルトチェイテ)。
- 罪の重さは条件ではない(確定): セイレムのロビンフッド「罪の重さじゃホプキンスのほうが よほど反英雄にふさわしかった筈だ。」。
- 規範を持つ(確定): ジャンヌ・オルタ「反英霊にも礼節はあります。」(オルレアン)。ただの殺人鬼とは区別される。
- 召喚後の裁きとは無関係(確定): 「英雄、反英雄というものは、 その手に罪があり―――」「そして、その罪は召喚された時点で 拭い去られている。」(幕間の物語)。
- 反英雄でない霊基もありうる(確定): メドゥーサ「本来ならありえないはずの――― 『反英雄ではないメドゥーサ』。」(幕間の物語)。同一の英雄から反英雄でない側が独立して成立した例。
- 不安定な中間状態(確定): ジキルは自分の霊基を「反英雄と英雄未満の人間を不安定に行き来する程度の、 あやふやなモノさ。」と評する(幕間の物語)。反英雄と英雄未満の人間のあいだに連続的な段階があることが示唆される。
- 【推測】 三つの成立経路(恐怖/映し鏡/討たれ役)は、いずれも人の側が向けた否定的な観念が固定された結果という点で共通する。反英霊/反英雄は霊基の種別ではなく、英霊の座への記録のされ方を指す語だと読むのが、全用例と矛盾しない唯一の整理である。
揺れ・矛盾
- 「反英霊」と「反英雄」が区別されない。 表記としては前者が4章5件、後者が36章73件で、内容の差は示されない。同じ場面で使い分けられた例も、両者の違いを説明した台詞も存在しない。ページ名は前者だが、作中で標準的に使われているのは後者である。
- 定義が話者ごとに割れている。 恐怖を喰らってなる(カーミラ)/英霊の映し鏡として記録される(ジャンヌ)/英霊に敗れるための生贄(茨木童子)/人々が敵役として望んだ結果(アンリマユ)と、成立の説明が四通りある。共通項は「英雄の陰画として記録される」という一点のみ。
- 区分そのものの有効性が作中で疑われている。 トラオムの地の文は「百人を殺害した英雄、 一千人を守った反英雄。」を並べて「どれも、違いはない。」と結論し、幕間の物語では罪が召喚時点で拭い去られると述べられる。英雄と反英雄を分ける実務上の意味は、作中でほとんど否定されている。
- オルタとの関係が説明されない。 ジャンヌ・オルタが反英霊を自称し、カーミラが反英霊として成立する一方、オルタ化と反英雄化がどう関係するのかは最後まで明言されない。FGO本編では、両者を接続する説明は与えられていない。
関連
- アヴェンジャー — 反英雄がクラスとして登録されるときの主な受け皿
- エクストラクラス / サーヴァントクラス — 反英霊はこの体系の外にある概念
- プリテンダー — アヴァロン・ル・フェで反英雄の先に置かれた記録形式
- 英霊 / 霊基 / オルタ
- 英霊の座 — 反英霊が「記録される」先
- サーヴァントのクラス(概説)
- 用語集: 世界用語・サーヴァント用語
FGO全シナリオ(メインストーリー・イベント・幕間・バレンタイン)を機械走査し、『反英霊』および関連表記『反英雄』を含む発話を全件収集したうえで構成している。引用はすべてゲーム内テキストの原文(演出タグを除去した表示テキスト)であり、要約・改変を行っていない。編者の解釈のうち原文から確実に読み取れないものには 【推測】 を付す。なお付録の原文引用アーカイブは「反英霊」表記の5件のみを収録しており、本文で扱った「反英雄」表記の用例は含まない。
付録: 原文引用アーカイブ
原文引用アーカイブ(機械収集・5 本)— 本文で扱わなかった言及もここに残してある
本節はコンコーダンス一致行を全件収録している。一致行は原文ベースで 11件、同一 war 内で完全に同一の(話者・本文)が重複する分岐台本を除去すると 5件(4章)。
章の並びはゲーム内の章番号順(メインシナリオ → イベント)である。
幕間の物語(war 1003・引用1件) 〈場面:我が神はここにありて Ⅲ〉
- ジャンヌ —「貴女は私という英霊の映し鏡。 即ち、反英霊として記録するかもしれませんよ。」
第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン(war 101・引用2件) 〈場面:黒いジャンヌ〉
- ジャンヌ・オルタ —「反英霊にも礼節はあります。 ただの殺人鬼に落ちないよう、気をつけなさい。」
〈場面:ジャンヌとジャンヌ〉
- カーミラ —「おまえのような未完成品とは訳が違う。 私は恐怖を喰らって反英霊となり、ここに居る。」
超極大魔城ベルトチェイテ(war 9009・引用1件) 〈場面:第十四節『歌を歌おう』〉
- 茨木童子 —「無論、反英霊という、 英霊に敗れるための生贄としてだがな。」
伝説再来魔城チェイテ(war 9120・引用1件) 〈場面:第四節 仕切り直しハロウィン〉
- 茨木童子 —「無論、反英霊という、 英霊に敗れるための生贄としてだがな。」