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彷徨海

分類: 世界観 / 別名・関連表記: バルトアンデルス、彷徨海バルトアンデルス、ノウム・カルデア(カルデアが間借りしていた期間の呼称)

この用語は何か

彷徨海(ほうこうかい)とは、北海のどこかを漂う「生きた海」の中に隠された、西暦以前に造られた最古の魔術棟である。正式名はバルトアンデルス。ロンドンの時計塔、エジプトのアトラス院と並ぶ魔術協会の三大部門でありながら、他の二つと違って所在地が定まらない。北海に浮かぶ島だと言われてきたが実態は逆で、一つの異世界として移動する「海」の中に魔術棟が入っている、というのがその構造である。

理念も他の二部門と正面から食い違う。彷徨海の絶対原則は「文明による魔術の進歩・変化を認めず、西暦以前の神秘——神代の魔術のみを魔術とする」こと。人類史とともに魔術を積み上げてきた時計塔とは相反する立場であり、必然的に現代の人間社会とは相容れない。門は堅く閉ざされ、新たな門弟は年に一度の機会にひとりだけ選ばれる。

FGO でこの島が意味を持つのは、カルデアが本部を失ったあとの避難先としてである。地球白紙化は地表を丸ごと塗り替えたが、彷徨海はそもそも地球のテクスチャの隙間に漂う特異点のような場所だったため、波に洗われなかった。ここに逃げ込んでいたアトラス院錬金術シオン・エルトナムが、島を借り受けてカルデアの管制室を組み直し、流浪していたシャドウ・ボーダーを迎え入れた。第二の拠点ノウム・カルデアはこうして始まり、ストーム・ボーダーもこの島のドックで建造されている。

そして本編での彷徨海は、最後まで味方ではない。島の主たちは西暦以後の人類が滅びることに関心を示さず、カルデアに貸し与えたのはエントランス一区画だけだった。それでも人理修復の実務は、この一区画から一年ぶん動いている。

基本データ

項目内容
正体移動し続ける「海」の中に置かれた、西暦以前の魔術棟。正式名バルトアンデルス
位置づけ魔術協会三大部門の一つ(時計塔/アトラス院/彷徨海)
絶対原則文明による魔術の進歩・変化を認めない。神代の魔術のみを魔術とする
所在北海。座標は常に変動し、外部からの転移・観測を受け付けない
入港方法島の下(海中)から自動的に牽引される。通常の船では立ち入れない
内部構造エントランスと、そこから伸びる五つの扉——維持(セレン)/再生(ガヌ)/発展(エレン)/保存(ゲノン)/隷属(フシルカ)
扉の正体各時代と「消失する前の彷徨海」を繋ぐタイムゲート
カルデアとの関係シオンが八枚目のアトラスの契約書と引き換えに、仮想時間1年ぶんの滞在許可を得た
最期非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ異星の神の疑似ブラックホールに捕捉され、シオンが自爆させて消滅
作中での初出Lostbelt No.2 無間氷焔世紀 ゲッテルデメルング(冒頭の救難信号)

章別解説

Lostbelt No.2 無間氷焔世紀 ゲッテルデメルング

ロシア異聞帯を脱してなお行く当てのないシャドウ・ボーダーに、正体不明の通信が入る。汎人類史の魔術師へ座標へ合流せよ、という呼びかけであり、名乗りは「バルトアンデルス」。カルデア新所長ゴルドルフ・ムジークは絶叫に近い反応を返す——それはまだ残っていたのか、と。彼が挙げる魔術世界の三大組織はロンドンの時計塔、エジプトのアトラス院、そして北海に隠された神代の島・彷徨海であり、この場面が三大部門の枠組みそのものの初出でもある。

  • 〔intro.2-1〕??? —「『こちらはバルトアンデルス。  彷徨海(ほうこうかい)、バルトアンデルスである』」 / ゴルドルフ —「そして―――北海(ほっかい)に隠された神代(しんだい)の島、 最古の魔術棟(まじゅつとう)、彷徨海……!」 (この場面を読む

続けてマシュが、カルデアのデータベースに残っていた概要を読み上げる。魔術協会は西暦初頭に成立した時点で三つに分かれており、時代に適応する道を選んだのが時計塔、錬金術に特化したのがアトラス院、そして魔術の進歩そのものを認めないのが彷徨海だった。ゴルドルフは彼らを「かび臭い魔術にのみ執着した老人どもの集まり」と切り捨てつつ、時計塔でも辿り着けた者は数えるほどしかいない、と認める。アトラス院とは別種の秘密主義という言い方が、この段階で二つの組織を対比させている。

  • 〔intro.2-1〕マシュ —「『文明による魔術の進歩・変化を認めず、  西暦以前の神秘―――神代(しんだい)の魔術のみを魔術とする』」「それが彷徨海の絶対原則だそうです。 ロンドンの時計塔とは相反する理念ですね。」 (この場面を読む
  • 〔intro.2-1〕ゴルドルフ —「時計塔でも彷徨海に辿り着けた者は 数えるほどしかいない。」「分かるかね? アトラス院の連中とは違った意味で 秘密主義者の集まりなのだよ、彷徨海の連中は。」 (この場面を読む

なぜ内情が知られていないのかを説明するのはホームズである。彷徨海は常に移動している。浮島だと言われてきたが実態は逆で、一つの異世界として移動する「海」の中に魔術棟が存在する。神秘のテクスチャを貼りながら移動する土地——彼はこれを「独立した特異点」と呼び、だからこそ地表を漂白する現象からも逃れられただろうと推測する。地球白紙化を生き延びた理由が、島の性質から先回りして説明されている。

  • 〔intro.2-1〕ホームズ —「彷徨海は常に移動している。」「一つの異世界として移動する“海”の中に、 西暦以前に造られた魔術棟が存在する。」「神秘のテクスチャを貼りながら移動する土地――― なるほど。まさに“独立した特異点”だ。」 (この場面を読む

この「移動している」性質が、そのまま北欧異聞帯へ突入せざるを得ない理由になる。ダ・ヴィンチは彷徨海への虚数潜航を技術顧問として禁止する。送られてきた座標が大雑把で、しかも常にブレているためだ。一度直接行って縁を結ばないかぎり長距離の虚数潜航は成立しない——この一言が、カルデアに陸路でスカンジナビア半島を横断させ、結果として北欧異聞帯の攻略へ引きずり込む。彷徨海は、行き先である以前に第二部前半の行動を規定する制約だった。

  • 〔intro.2-1〕ダ・ヴィンチ —「一つは彷徨海の特性。座標は送られているけど、 この座標、めっちゃくちゃ大雑把なんだ。」「彷徨海には直接行(い)って縁を結ばないと 長距離移動虚数潜航は困難だ。」 (この場面を読む

北欧を終えた直後、再び通信が入る。「こちら彷徨海船港(ドック)」と名乗る早口の声が、この島が12月31日以外に姿を現すのは2000年ぶりだと言い、ボーダーを招き入れる。

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Lostbelt No.3 人智統合真国 シン

彷徨海が場所として初めて描かれる章である。北海のただ中で沈没寸前だったボーダーは、岩肌に近づいたところで強引な海流に牽引され、海中に40メートル沈んでから浮上する。ダ・ヴィンチは島の下から入ったのだろうと推測し、ホームズはそれを入港システムと理解する——通常の船では決して立ち入れない構造だ、と。

  • 〔intro.3-2〕??? —「ようこそ原初の魔術工房、 彷徨海(ほうこうかい)・バルトアンデルスへ!」 / ダ・ヴィンチ —「たぶん、島の下から彷徨海(ほうこうかい)に入ったんじゃないかな~。 外に入り口とかないんだよ、きっと。」 (この場面を読む

上陸前から島の性質が実演される。ボーダーの全センサーが何も返さないのだ。理由は故障ではなく検閲で、彷徨海は小石ひとつにいたるまで科学技術に頼った観測を拒絶している。魔術の進歩を認めないという原則が、外来者の計測機器を無効化する形で物理的に効いている。

  • 〔intro.3-2〕??? —「悪いけど彷徨海(ほうこうかい)は小石ひとつにいたるまで “科学技術に頼った観測”は拒絶している。」 (この場面を読む

出迎えたのはシオン・エルトナム・ソカリスと、名を持たないサーヴァント「キャプテン」だけだった。シオンがなぜ地球白紙化を逃れられたのかという問いへの答えが、この島の定義そのものになっている。彷徨海はつねに地球のテクスチャの隙間にたゆたう特異点のようなもので、地球が白紙化の波に覆われても影響を受けない。彼女はその未来をトライヘルメスで予測したうえで、逃げ込む先としてここを選んでいた。

  • 〔intro.3-2〕シオン —「彷徨海(ほうこうかい)はつねに地球のテクスチャの隙間に たゆたう特異点のようなもの。」「地球が白紙化の波に覆われても、 彷徨海(ほうこうかい)ならその影響を受けないからです。」 (この場面を読む

同じ場面で、彷徨海の魔術師がひとりもいない理由も明かされる。彼らは白紙化を自分の問題と捉えていない。それどころか、西暦以後の人類は滅びても構わないと考えている。クリプターの勝利宣言があったとき、彼らは「終焉は君たちの手で回避するべきものだ」と言い残して立ち去った。残されたのは条件つきの許可だけである——カルデアの魔術師を招いてよい、ここまでであれば使ってよい、ただし我らの工房には立ち入るな、運命の保障はできない。

  • 〔intro.3-2〕シオン —「『終焉は君たちの手で回避するべきものだ。  我々は既に、人類の文明に関心はない』」「彷徨海(ほうこうかい)の魔術師たちはそう言って立ち去りました。」 (この場面を読む
  • 〔intro.3-2〕シオン —「『カルデアの魔術師を招く事は許可しよう。  彷徨海(ほうこうかい)も、ここまでであれば使用してよい』」「『だが、くれぐれも我らの工房には立ち入らぬ事だ。  運命の保障はできない』とも。」 (この場面を読む

カルデアが使えるのはエントランスだけであり、その奥はそれぞれ異なる「神代回帰の工房」へ繋がる石扉で閉ざされている。ホームズは扉を開けて協力を取り付けたいと言いかけるが、ゴルドルフが取り乱して止める。扉の向こうから時計塔の学園長と同じ気配がいくつも感じられる、というのがその理由で、ダ・ヴィンチも触れることに反対する。島の主たちは終始、姿を見せないまま圧力としてだけ存在する。

  • 〔intro.3-2〕シオン —「ここはもともと彷徨海(ほうこうかい)のエントランスで、 それぞれ異なった神代回帰(しんだいかいき)の工房に繋がっています。」 / ゴルドルフ —「こんなコトってあるかね!? あの扉一枚でロードが何人も砕け散りそう!」 (この場面を読む

一方、クリプター側から見た彷徨海の評価も同章で示される。キリシュタリアはカルデアの移動先を彷徨海と見抜きつつ「また厄介な場所に移動したものだ」と苦い顔をし、クリプターペペロンチーノは理由を端的に言う——彷徨海は『この世に有ってこの世に無い』絶界の島であり、無いものに消しゴムはかけられない。異星の神とその使徒ですら捉えられなかった、というのがこの時点での確認である。白紙化に対する唯一の安全地帯という位置づけが、敵側の口からも裏づけられる。

  • 〔intro.3-3〕ペペロンチーノ —「彷徨海(ほうこうかい)は『この世に有ってこの世に無い』絶界の島。 無いものに消しゴムはかけられないでしょ。」 / キリシュタリア —「どうだろうね。『異星の神』と、その使徒ですら 彷徨海(ほうこうかい)を捉える事はできなかったんだ。」 (この場面を読む

入港から二週間後、シオンは島の一角にカルデアの管制室を再現してみせる。素っ気ない事実として彼女が付け加えるのは、彷徨海はもともと人が生活する空間ではなかったということだ。居室も食堂もそこから作られた。そして中国異聞帯へ発つ直前、彼女は呼称を改める——此処に至ってもうアトラス院も彷徨海もない、現時刻をもってここは第二のカルデア、ノウム・カルデアである、と。間借りした島が組織名を得た瞬間であり、以後この島は拠点として扱われる。

  • 〔intro.3-4〕シオン —「彷徨海(ほうこうかい)は見ての通り、 人が生活する空間ではありませんでした。」「此処に至って、 もうアトラス院も彷徨海(ほうこうかい)もありません。」「現時刻をもって彷徨海(ほうこうかい)は第2のカルデア…… ノウム・カルデアと呼称。」 (この場面を読む

ただし安全は絶対ではなかった。同章でコヤンスカヤが島の内部へ転移してくる。外から彷徨海へ転移することは不可能なのだから、内部に彼女がアンカーにできる媒体があった——ホームズの推理はゴルドルフの私物へ行き着く。彷徨海の防御は外部からの侵入にしか効かないという抜け穴が、ここで一度だけ突かれている。

  • 〔intro.3-4〕ダ・ヴィンチ —「外から彷徨海(ほうこうかい)に転移する事は不可能だ。 姿が見えず、座標も常に変わっているのだから。」 / ホームズ —「彷徨海(ほうこうかい)の中に、彼女がアンカーにできる 媒体があった、という事だろう。」 (この場面を読む

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Lostbelt No.4 創世滅亡輪廻 ユガ・クシェートラ

彷徨海が工房として何をもたらしたかが具体的に数えられる章である。ホームズは、この島でもレイシフトができると証明されたことを収穫に挙げる。異聞帯攻略には使えない技術だが、手段が増えるのは喜ばしい、と。マシュも霊基外骨骼の安定性が彷徨海に入る前とは段違いだと報告しており、設備の有無がそのまま戦力差になっていることが分かる。同時にシオンは、島のドックからの虚数潜航なら行き先までの距離を短縮できると見立てており、移動の起点としても島が機能する

  • 〔intro.4〕ホームズ —「ああ。結果的に、この彷徨海でもレイシフトが できる事が証明されたのだからね。」 / シオン —「彷徨海からインド異聞帯の付近まで 虚数空間を使用しての移動、」 (この場面を読む
  • 〔神と遭逢する山〕マシュ —「やはり彷徨海に入る前とは安定性が段違いですね。」 (この場面を読む

一方で、この島に対する率直な感想も同章で述べられる。ネモは自分を「海を愛するだけの存在」と呼んだうえで、彷徨海は海ではあったけれど生命を育む海ではなかったと言う。だからカルデアにも期待していなかった、と続くこの述懐は、拠点としての彷徨海が最後まで「借りもの」でしかなかったことを端的に示している。

  • 〔黒き最後の神〕ネモ —「彷徨海は海ではあったけれど、 生命を育む海ではなかった。」 (この場面を読む

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Lostbelt No.5 神代巨神海洋 アトランティス

彷徨海のドックが造船所として使われる章である。大西洋異聞帯へ向けて建造されたノーチラスは、この島のドックで組み上げられた宝具外装であり、試運転は島の周辺海域ではなく虚数の海で行われた。艦が真っ二つに割られたあと、ネモは再建を即座に否定する——あれは彷徨海のドックで組んだものだ、と。建造できる場所が世界に一箇所しかないという事実が、この否定の重さになっている。

  • 〔権能の極小集合体〕ネモ —「………………それは無理。 あれは彷徨海のドックで組み上げた宝具(がいそう)だ。」 (この場面を読む

同時に、島の限界もここで語られる。オデュッセウスの艦隊を突破するための艦をめぐって、ネモはシオンの要求がもっと高い地点にあったこと、そして彷徨海ではそれを叶える資源がなかったことを明かす。ヘファイストスのナノマシンを得て初めてストーム・ボーダーが成立するのは、この不足があったからである。彷徨海は神代の魔術を蓄えていても、現代的な資材は持っていない。

  • 〔地に散らばった星たちよ〕ネモ —「シオンの要求はもっと高い地点にあった。 彷徨海ではそれを叶える資源がなかったけど……」 (この場面を読む

→ 章別解説: Lostbelt No.5 神代巨神海洋 アトランティス

Lostbelt No.5 星間都市山脈 オリュンポス

島は前線と切り離された後方として描かれる。異聞帯の内部からリアルタイムの通信は成立せず、カルデアは取得した戦闘・環境データを彷徨海へパッケージ送信し、島からの受信音を待つ。マシュが待機中に実装のシミュレートを済ませているのも、この非同期のやりとりを前提にした運用である。

補給の重さもここで具体的に語られる。予備令呪三画の充填にあたってゴルドルフが数え上げるのは、彷徨海の魔力炉複数のフル稼働、技術顧問と経営顧問の力、そしてシオンの睡眠時間である。島の設備を総動員して、ようやく令呪三画——拠点としての彷徨海がどの程度の余力しか持たなかったかが、この一言に出ている。

  • 〔星間都市山脈オリュンポス〕ゴルドルフ —「彷徨海の魔力炉複数をフル稼働させつつ、 技術顧問や経営顧問の力、シオン君の睡眠時間、」 (この場面を読む

章の終わり、異星の神オルガマリーの姿をとったことに動揺する一同へ、ホームズは彷徨海のカルデアベースにアニムスフィアのデータも移してあると告げ、戻り次第それを検証しようと提案する。カルデアの記録の避難先としても島が機能していたことが分かる。

  • 〔続く旅路〕ホームズ —「幸い、彷徨海のカルデアベースには アニムスフィアのデータも移されている。」「彷徨海に戻り次第、データを検証しましょう。」 (この場面を読む

→ 章別解説: Lostbelt No.5 星間都市山脈 オリュンポス

地獄界曼荼羅 平安京

帰る場所としての彷徨海が、唯一まとまって描かれる章である。冒頭、ネモが「シャドウ・ボーダー、彷徨海一番ドックに着港した」と告げ、マシュが彷徨海カルデアベースへの帰還を報告する。ただしその手順は面倒だった——海上に停泊させたストーム・ボーダーからシャドウ・ボーダーへ乗り換え、約20分の海中移動を経てようやく入港する。ゴルドルフはこれを「欠陥工房」と毒づくが、裏を返せば外からは相変わらず入れないという島の性質は最後まで変わっていない。

  • 〔プロローグ〕ネモ —「シャドウ・ボーダー、彷徨海一番ドックに着港した。 カルデアスタッフは速やかに下船するように。」 / ゴルドルフ —「海中(した)からしか彷徨海に入れんとは、 欠陥工房と言わざるをえないな!」 (この場面を読む

マシュはオリュンポスから彷徨海までの道のりで皆の緊張がほぐれたと観察しており、島がすでに単なる借り物の設備ではなく心理的な帰着点になっていたことが示される。同じ場面でネモが「こうしてベースに戻ってこられるのも、この先はないかもしれない」と釘を刺しており、喪失の予告にもなっている。

  • 〔プロローグ〕マシュ —「オリュンポスから彷徨海までの間で、 緊張がほぐれたのかと。」 (この場面を読む

→ 章別解説: 地獄界曼荼羅 平安京

幕間の物語

本編の合間では、彷徨海は生活の場として顔を出す。厨房に立った紅閻魔は「彷徨海は海の幸には困りまちぇんね」と言い、島が海の中にあることを料理人の目線から評する。ダ・ヴィンチは医務室の設置を「彷徨海に辿り着いてやっと落ち着いて」からの出来事として振り返っており、カルデアという組織が最低限の体裁を取り戻したのがこの島だったことが分かる。エジソンが「彷徨海には蚊なんていたっけか」と首をひねる場面まである。神代の魔術師が籠もる絶界の島に、食堂と医務室と虫の話が同居しているのがこの時期のノウム・カルデアである。

  • 〔閻魔帳の秘密〕紅閻魔 —「彷徨海は海の幸には困りまちぇんね。 調理する側にはありがたいかぎりでち。」 (この場面を読む
  • 〔医の記憶〕ダ・ヴィンチ —「彷徨海に辿り着いてやっと落ち着いて、 また医務室を置くか、ということになったとき――」 (この場面を読む

→ 章別解説: 幕間の物語

凹型虚数怪理 イマジナリ・トレンチ

彷徨海の「圏内」がどこまでかが定義されるイベントである。虚数潜航中に敵性体と遭遇し、彷徨海カルデアベースとの交信が途絶した状況で、ネモは現在地を整理する——ここは異聞帯でも特異点でもなく、虚数空間ではあるが彷徨海の周辺であり、まだカルデアベースの陣地内だと言える。魔力炉と電算サーヴァントを備えた要塞がある以上、ここはカルデアの出張所のようなものであり、だから霊基グラフを使った召喚が成立する。島そのものだけでなく、その周囲の虚数空間までが拠点の一部として扱われている。

  • 〔第一幕 不可知の暗礁(1/2)〕ネモ —「ここは異聞帯でも特異点でもない。 虚数空間ではあるが彷徨海の周辺……」「まだ『カルデアベースの陣地内』と言える。」 (この場面を読む

→ 章別解説: 凹型虚数怪理 イマジナリ・トレンチ

非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ

彷徨海が失われ、同時にその正体が明かされる章である。冒頭、島の側から通信が入る。シオンが提示した滞在の刻限が近づいた、という確認であり、そこで初めて契約の内容が読み上げられる——新しく発行する八枚目のアトラスの契約書と引き換えに、白紙化した地球での仮想時間一年ぶんの滞在を許可する。相手は五つの扉の名を順に挙げ、それぞれがシオンに向ける評——乾杯、憐れみ、嘲笑、共感、蔑み——を並べたうえで、アトラス院に敬意を払って人理保障を見逃す、と告げる。カルデアの一年は、シオンが個人の資格で買い取ったものだった。

  • 〔Prologue〕??? —「2017年の彷徨海を使用する条件。」「彷徨海バルトアンデルスは、それぞれ、 おまえの天才性を認めている。」「『維持の扉』セレンは、その精神に乾杯を。 『再生の扉』ガヌは、その行動に憐れみを。」「アトラス院に敬意を払い、 彷徨海(わ れ わ れ)は、人理保障とやらを見逃そう。」 (この場面を読む

コヤンスカヤとの決着がついた直後、警告が鳴る。上空3000メートルに重力変動——U-オルガマリーによる疑似ブラックホールである。彼女は彷徨海を「虚海と共に移動する島」「切り離された時空からの写し絵」と正確に見抜いており、素粒子を見据える全天の視覚で拾えなかったのは道理だったと認めたうえで、本気を出せば三秒で見つかったと言い放つ。捕捉されないはずの島が捕捉されたことに現場は動転するが、シオンだけは動じない。彼女はカルデアを先に脱出させ、自身は「彷徨海を間借りした者の責任として」五つの扉を閉める作業に残る。

  • 〔旅立ち〕U-オルガマリー —「もとより我が手のひらの上にはいなかったのだ。 いくら海をさらおうと無意味だった。」 / ムニエル —「マジかよ!? 彷徨海は捕捉されないんじゃなかったのかよ!?」 (この場面を読む
  • 〔旅立ち〕ホームズ —「『彷徨海を間借りした者の責任として、  五つの扉を完全に閉めておく』」「ええ。いずれ彷徨海にはいられなくなる。 そのためにストーム・ボーダーには居住区があった。」 (この場面を読む

ホームズはここで、シオンが最初からこの日を織り込んでいたことを指摘する。ストーム・ボーダーに居住区があるのは、いずれ彷徨海にいられなくなると分かっていたからだ。そして彼女の意図はもう一段先にあった——カルデアは彷徨海の庇護下にある組織ではなく、どの勢力にも属さない、今を生きる者たちの組織であるべきだ。島を失うことは、カルデアが独立するための手順でもあった。

扉を閉じる作業の途中、五つ目の扉から「本当の彷徨海」に在籍する魔術師フォアブロ・ロワインが姿を現す。この短い対話が、彷徨海の設定の核心である。彼は言う——『彷徨海』に消滅はない。遙かな過去、人類や神々の目から自分たちを隔離するため、彼らは絶海の孤島に工房を作り、その一帯ごと宇宙から「消失」した。時空の迷い子、あるいは永遠の行方不明。誰も観測できず、干渉できない。ただ一つ、この五つの扉を除いては。各時代に現れる彷徨海は、かつてあった彷徨海から時代に落ちた影にすぎない。だから2017年の彷徨海が崩壊しても、それは2017年だけの話である。シオンはここで五つの扉の正体を言い当てる——あれはタイムゲートであり、消失する前の彷徨海と交信できる扉なのだ、と。

  • 〔旅立ち〕魔術師 —「無論だ。『彷徨海』に消滅はない。 遙かな過去―――」「人類や神々の目から自分たちを隔離するため、 彼らは絶海の孤島に工房を作り、」「その一帯ごと、その宇宙から『消失』した。」「時空の迷い子。あるいは永遠の行方不明。 誰も観測できず、干渉できない。」「ただ一つ―――この『五つの扉』以外は。」 (この場面を読む
  • 〔旅立ち〕魔術師 —「各時代に現れる彷徨海は、『かつてあった彷徨海』から 時代に落ちた影にすぎない。」 / シオン —「あれはタイムゲートなんですね。」「どのような時代であれ、消失する前の 『彷徨海』と交信できる扉なのだと。」 (この場面を読む

彼は続けて、門弟になるための資格などほとんど無いと明かす。必要なのは扉が開いた時にその場にいることだけで、神秘と運命が一致した者であれば誰でもいい。そのうえで、いま扉は開いていると告げてシオンを誘う。彼女は断る。カルデアと自分には解かねばならない問題がある、縁がなかったということで、と。魔術師が最後に残した一言は、この島とカルデアの関係を定義し直すものだった——彷徨海はカルデアに庇を貸したのではない、シオンに機会を与えたのだ、と。

  • 〔旅立ち〕魔術師 —「ただ、扉が開いた時にその場にいること。 神秘が、運命が一致した者であれば誰でもいい。」「彷徨海(われわれ)はカルデアに庇(ひさし)を 貸したのではない。」「君に機会を与えたのだ、シオン。 その、奇妙としか思えぬ計画に。」 (この場面を読む

島は破壊されるのではなく、シオン自身の手で自爆する。ダ・ヴィンチは離脱時の閃光を分析し、彷徨海を極小まで圧縮して解放し、そのエネルギーを異星の神へぶつけたのだと説明する。当のシオンは戸締まりと自爆機能を作動させたうえで自力でストーム・ボーダーに合流しており、マシュに「彷徨海の撤去作業、おつかれさまでした」と労われている。以後カルデアの拠点はストーム・ボーダーへ移る。

  • 〔旅立ち〕ダ・ヴィンチ —「彷徨海を極小まで圧縮、解放して、 そのエネルギーを『異星の神』にぶつけたんだ。」 / シオン —「彷徨海の戸締まりと島の自爆機能をオン! して、自力でストーム・ボーダーに合流しました。」 (この場面を読む

→ 章別解説: 非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ

死想顕現界域 トラオム/Lostbelt No.7 黄金樹海紀行 ナウイ・ミクトラン

失われた後の彷徨海は、もう戻れない宿として言及される。トラオム冒頭でシオンは、異星の神の襲来によって「仮初めの宿であった彷徨海を失いました」と総括し、その重力崩壊をそのまま返して目を眩ませたと補足する。第七異聞帯でも、ネモ・プロフェッサーが「彷徨海ベースも消えてしまったのでもう使われる事はない」と口にしかけて言葉を濁す場面がある。

  • 〔序〕シオン —「『異星の神』の襲来によって、 仮初めの宿であった彷徨海を失いました。」 (この場面を読む

同じ第七異聞帯では、カドックが魔術世界の三勢力を改めて数え上げる場面があり、エジプトのアトラス院と北海の彷徨海が並べられる。組織としての彷徨海は、島の消滅後も汎人類史側の常識として残っている。

  • 〔第四冥界ヤヤウキ〕カドック —「魔術世界における『協会』は三つの勢力が存在する。 エジプトの『アトラス院』。北海の『彷徨海』。」 (この場面を読む

→ 章別解説: 死想顕現界域 トラオムLostbelt No.7 黄金樹海紀行 ナウイ・ミクトラン

終章

シオンの回想によって、彷徨海との契約がどう結ばれたかが明かされる章である。彼女の発想は単純だった——まだ確定していない地球に基地を置くには、そもそもこの時空に存在しない場所を使えばいい。全財産を投じるつもりで契約に向かったが、地の文が即座に訂正を入れる。実際のところ契約が成立したのは、父ズェピアが娘の荷物に忍ばせた契約書のおかげだった。カルデアの避難先は、アトラス院長が黙って持たせた一枚で確保されている。

  • 〔旅の終わり〕シオン —「まだ確定していない地球に基地(ベース)を置くには、 そもそもこの時空に存在しない場所を使えばいい。」 / (地の文) —「実際のところ、彷徨海との契約は父さんが私の荷物に 忍ばせた契約書のおかげだったがそこはカット。」 (この場面を読む

同じ回想で、ズェピアは代償を正確に告げている。白紙化した地球へ介入するには、シオン自身が異聞側の存在にならなければならない。汎人類史と縁を切るようなものであり、彷徨海に退避した場合、危機が解決して地球が元に戻った時に彼女はその異聞帯とともに消え去る。シオンは分かったうえで報告した、と答える。彷徨海に入ることは避難であると同時に、汎人類史からの離脱でもあった——シオンが終章で消える理由は、この選択にさかのぼる。

  • 〔旅の終わり〕ズェピア —「シオン。もし君が『こちら』より『そちら』を優先し、 彷徨海に退避した場合―――」「『そちら』の危機が解決し、地球が元に戻った時、 君は『その異聞帯』と共に消え去る事になる。」 (この場面を読む

→ 章別解説: 終章

読み取れる設定

  • 本体と影(確定): 「本当の彷徨海」は遙かな過去に一帯ごと宇宙から消失しており、各時代に現れる彷徨海はそこから時代に落ちた影にすぎない。ゆえに個別の彷徨海が崩壊しても本体には影響しない。
  • 五つの扉(確定): 維持(セレン)/再生(ガヌ)/発展(エレン)/保存(ゲノン)/隷属(フシルカ)。それぞれが「神代回帰の工房」に繋がるとされていたが、実体は消失前の彷徨海と交信するタイムゲートである。
  • 入門条件(確定): 資格はほとんど無く、「扉が開いた時にその場にいること」——神秘と運命が一致した者であれば誰でもよい。年に一度、ひとりだけ選ばれるという時計塔側の伝聞とは、選抜の理屈がまるで違う。
  • 白紙化への耐性(確定): 地球のテクスチャの隙間に漂う特異点のような場所であるため、地球白紙化の波を受けない。異星の神とその使徒も長らく捉えられなかった。
  • 防御の穴(確定): 外部からの観測・転移は不可能だが、内部に縁のある媒体が持ち込まれると転移のアンカーになる(コヤンスカヤの侵入)。
  • 技術の拒絶(確定): 島は小石ひとつにいたるまで科学技術による観測を拒絶する。ボーダーのセンサーは検閲されて何も返さない。
  • 拠点としての性能(確定): レイシフトが可能。虚数潜航の起点として距離を短縮できる。霊基調整・造船が可能。ただし居住設備は無く、現代的な資材も不足している。
  • 島のデータの異質性(確定): 幻想蒐集領域 パッチワーク・ロンドンで、カルデアの底で眠り続けていた観測装置ムネーモシュネーは、自分が目覚めたきっかけを「新たなカルデアが、彷徨海に設立されたとき」だと述べ、彷徨海のデータの異質性が呼び水になったと分析する。島に置かれただけで、外から持ち込んだ機材の挙動が変わる。
  • 【推測】ゴルドルフが石扉の奥に「学園長と同じ気配」を感じ、ダ・ヴィンチも接触に反対したことから、工房の主たちは時計塔のロードを大きく上回る格の魔術師として扱われている。ただし作中で彼らが直接戦力を振るう場面はない。

揺れ・矛盾

  • 島の「消滅」の意味が二重になっている: 2017年の彷徨海は物理的に自爆・消滅するが、魔術師フォアブロ・ロワインは「『彷徨海』に消滅はない」と明言する。組織としての彷徨海は健在で、失われたのは影の一つだけという整理になるが、汎人類史側の登場人物はその後も「彷徨海を失った」と語る。どちらも誤りではなく、指しているものが違う。
  • 捕捉不可能という前提が破られている: 第三異聞帯の時点でクリプター側は「異星の神とその使徒ですら捉えられなかった」と述べていたが、非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリではU-オルガマリーが「本気を出せば3秒で見つけ出せた」と言って上空に現れる。なぜそれまで本気を出さなかったのかについては作中で説明されていない。
  • 選抜方法の食い違い: ゴルドルフとホームズは「年に一度だけ門を開き、才能のある者を招き入れる」と説明し、シオンも「年に一度のみ希望者を募り、ただひとりを選ぶ」と理解していた。しかし当の魔術師は資格などほとんど無いと言う。外から見た彷徨海と、内側の実態がずれている例として読める。
  • 姿を見せた魔術師は一人だけ: 本編を通じて彷徨海の魔術師で名を持って現れるのはフォアブロ・ロワイン一人であり、五つの扉のうち残る四つの主については名前も人数も語られない。組織の内情は最後まで開示されない。

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